いつどこで どんな気分で買ったかさえ憶えていない。 でも、ケースの蓋がぱきんと割れるほどよく聞いた。 パリには 短い旅行で一度だけ。 フォションやラファイエットを覗くだけで満腹だった。 TVで見るパリにはいつもお決まりのアコーディオンが流れていたけど、 実際のパリには 音の記憶が無い。 歩道に溜まってる落ち葉や、ただただ流れていくセーヌ川、 黙って歩き続ける老夫婦。聞こえそうで聞こえてこない音たち。 私の中のうっすらとしたパリの記憶とはまったくかけ離れたところに、このアルバムはある。 知らない街で懐かしい匂いをたどって歩くような、 そして そこは決してパリではなく、日本の何処か。 眠りに落ちる瞬間に見た夢、出かける前のふわふわした気持ち、 スタジオの隅の埃臭い匂いだったり、夏の雨が一気に蒸発するむわっとした空気だったり。 歳をとってよかったと思うのは、そういう感覚を歳の分だけ体が覚えていること。 そういう類のなかにこのアルバムも存在していて、 たぶん私のこどもは、生まれながらにこれらの唄を歌うだろう。 |
Dimitri from Paris Sacre Bleu |
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